親から相続した不動産を売却したい②サムネ
■住活コラム

親から相続した不動産を売却したい②【税金や特例】

【目次】

1.相続した不動産を売却すると税金がかかる

不動産売却にかかる税金のイメージ画像

最初に、不動産を売却した時にかかる税金について説明します。

 

1.印紙税

印紙税は、金銭取引に関する契約書や領収書、有価証券などに課される税金です。

不動産売却時には、売主と買主が売買契約書を交わす際に、契約書に記載された売却価格に応じた金額の収入印紙を貼り付けて納付する必要があります。

令和6年3月31日までの期間に作成された売買契約書には、軽減税率が適用され、税額は以下のとおりです。

 

取引金額

本来の印紙税

軽減後の印紙税

10万円超50万円以下

400円

200円

50万円超100万円以下

1,000円

500円

100万円超500万円以下

2,000円

1,000円

500万円超1,000万円以下

10,000円

5,000円

1,000万円超5,000万円以下

20,000円

10,000円

5,000万円超1億円以下

60,000円

30,000円

1億円超5億円以下

100,000円

60,000円

国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」を参考に作成

 

2.譲渡所得税

不動産売却して利益が出たことを譲渡所得といいます。譲渡所得は、給与所得や事業所得などと同様に、所得税と住民税が課せられます。これを「譲渡所得税」と呼びます。

いくらかかるのかは条件によって異なりますので次項で詳しく解説します。

2.譲渡所得税の計算方法

税金計算のイメージ画像

この項目では、譲渡所得税の計算方法について詳しく解説します。

 

1.譲渡所得にかかる所得税と住民税は所有期間によって異なる

譲渡所得にかかる所得税と住民税は、売却年によって税率が異なり、所有期間が5年以下か5年以上かによって短期と長期に区分されます。

短期の場合は最高で39.63%の所得税と9%の住民税がかかり、長期の場合は所得税率が最高20.315%、住民税率が5%となります。所有期間が10年以上の場合には、軽減税率の特例が適用されることもあります。

 

不動産を所有していた期間

区分

短期

長期

期間

5年以下

5年超

10年超所有軽減税率の特例

居住用

39.63%

所得税30.63%

住民税 9%

20.315%

所得税5.315% 

住民税 5%

①課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21%(所得税10.21%・住民税4%)

②課税譲渡所得6,000万円超の部分20.315%(所得税15.315%・住民税5%)

非居住用

39.63%

所得税30.63%

住民税 9%

20.315%

所得税15.315%

住民税 5%

※2013年~2037年までは復興特別所得税として所得税額の2.1%が加算されます

 

たとえば、売却価格が3,000万円で取得費が2,400万円、さらに譲渡費用が200万円の場合、譲渡所得は「3,000万円−2,400万円−200万円」で400万円となります。

所有期間に応じた所得税と住民税の計算式を以下に示します。

 

 

・所有期間5年以下の場合

400万円×39.63%=158万5200円(所得税122万5200円+住民税36万円)

 

 

・所有期間5年超の場合

400万円×20.315%=81万2600円(所得税61万2600円+住民税20万円)

 

 

・所有期間10年超の場合(軽減税率の特例を適用する場合)

400万円×14.21%=56万8400円(所得税40万8400円+住民税16万円)

 

 

2.譲渡所得税の計算式

譲渡所得は、売却価格そのものが利益になるわけではありません。不動産を購入した際の費用(取得費)と売却した際の費用(譲渡費用)を、売却金額から差し引いて、その差額が譲渡所得となります。

譲渡所得を計算式で表すと以下のようなります。

 

売却益(譲渡所得)= 売却価格

 売却価格から以下の3つの費用を差し引く 

①  物件の購入価格から減価償却費※を引いた価格(購入したときの価格)

②  購入したときの費用(取得費)

③  売却したときの費用(譲渡費)

※減価償却の計算式

減価償却費 = 建物購入価額×0.9×償却率×経過年数

(経過年数は築年数ではなく、購入の引渡から売却の引渡までの所有期間を表します)

 

3.取得費と譲渡費

取得費と譲渡費は、以下のものが該当します。

 

 

・取得費(不動産を購入したときの費用)

取得費には、売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費なども含まれます。建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。

(1)土地・建物の購入代金

(2)建築代金

(3)購入時にかかった税金(登録免許税、不動産取得税、印紙税など)

(4)仲介手数料

(5)測量費

(6)整地費・建物の取り壊し費用など

(7)設備費

(8)改良費

(9)一定の借入金利子

 

参考:国税庁のホームページ「No.3252 取得費となるもの」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm

 

 

・譲渡費(売却したときの費用)

修繕費や固定資産税など、その資産の維持や管理のためにかかった費用や売却した代金の取立てのための費用などは譲渡費用に含まれません

(1)土地や建物を売るために支払った仲介手数料

(2)印紙税で売主が負担したもの

(3)貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料

(4)土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額

(5)既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために支払った違約金。これは、土地などを売る契約をした後、その土地などをより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のことです。

(6)借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など

 

参考:国税庁のホームページ「No.3255 譲渡費となるもの」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3255.htm

3. 税額を抑えられる特例

節税のイメージ画像

次に、売却で発生する税金負担を抑えられる特例を紹介します。

 

 

1.空き家の譲渡所得の特例

空き家の譲渡所得の特例は、相続で取得した空き家を売却した場合に、得た利益(譲渡所得)から最大で3,000万円を控除できる制度です。

最大で3,000万円までが控除されるということは、譲渡所得がゼロになることもあります。非常に魅力的な制度ではありますが、要件が厳しく利用者は多くありません。

具体的な要件は以下のとおりです。令和5年度税制改正で内容が2点変更されています。

 

①昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋であること(旧耐震基準の家屋であること)

②被相続人が1人で住んでいた自宅であること(別荘等は不可)

③売却金額(譲渡価額)が土地建物合計で1億円以下であること(共有で譲渡する場合は総額で1億円以下)

④家屋付で譲渡する場合は、譲渡時に耐震基準に適合していること

⑤相続発生後、ずっと空き家であること(誰かに貸したり、住んだりしていないこと)

⑥(改正)相続開始の日から3年目の12月末までに譲渡すること、かつ2027年 12月末までに譲渡を行うこと→税制改正により、特例の適用期間が4年間延長

⑦(改正)更地で譲渡する場合は、譲渡時迄に売主側(譲渡側)で取壊しを行うこと→税制改正により、買主側での取壊しも可

 

2023年12月31日までとされていた特例の適用期間が2027年12月31日まで延長され、譲渡後の耐震改修工事や取壊しを行った場合も適用されるようになりました。この拡充については令和6年1月1日以降の譲渡が対象です。

令和5年度税制改正の概要については、以下のリンクからご確認ください。

令和5年度税制改正の概要(空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充・延長)

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001617701.pdf

 

 

2.相続税の取得費加算の特例

相続税の取得費加算の特例は、相続後3年10ヶ月までに相続した不動産を売却した場合に、相続税額の一定金額を取得費に加算する制度です。

ひとつ前に紹介した「空き家の譲渡所得の特例」よりも条件がゆるめなので、空き家の特例が適用できない場合はこの特例を検討してみましょう。

相続税の取得費加算の特例を利用すると、相続税の一部を取得費として計上することができます。不動産を売却した際には、譲渡所得に対して相続税がかかります。そのため、取得費が多ければ多いほど、相続税の支払い額が低くなる傾向があります。

取得費の加算額は、相続税額と売却した不動産の価額に基づいて計算されます。具体的な計算式は以下のとおりです。

 

取得費の加算額 = 相続税額 × 売却した不動産の価額 ÷(相続税の課税価格+債務控除額)

譲渡所得 = 譲渡価額-(取得費+取得費の加算額+譲渡費用)

 

相続税の取得費加算の特例を利用するためには、相続後3年10ヶ月以内に不動産を売却する必要があります。不動産の売却を検討している場合は、この特例を活用して節税効果を得ることができますので、早めの行動が重要です。

 

3.3,000万円の特別控除

「3,000万円特別控除」は、自宅を売却する際に最大3,000万円までの譲渡所得を控除できる制度です。この特例は、戸建てやマンション、または住んでいた家を取り壊した土地など、さまざまな物件に適用可能です。さらに、所有期間の長さに関わらず、適用を申請することができます。

適用条件などについては以下のリンクからご確認ください。

No.3302 マイホームを売ったときの特例

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

 

 

4.マイホームを売った時の特例

この特例は、所有期間が10年を超える自宅を売却した際に、税率を更に軽減できます。

通常、所有期間が5年を超える不動産には、長期譲渡所得税率(所得税:15.315%、住民税:5%)が適用されます。しかし、この特例を利用すると、課税対象となる譲渡所得6,000万円以下まで、より低い税率が適用されます。

特例を利用する場合、税率は譲渡所得金額の6,000万円以下と6,000万円を超える部分で異なります。詳細は以下のとおりです。

 

譲渡所得

所得税

住民税

合 計

課税譲渡所得が

6,000万円以下

10.21%

4%

14.21%

譲渡所得

所得税

住民税

合 計

課税譲渡所得が

6,000万円超(6,000万円以下の部分)

10.21%

4%

14.21%

課税譲渡所得が

6,000万円超(6,000万円超の部分)

15.315%

5%

20.315%

 

なお、この特例は先述の「3,000万円特別控除の特例」と併用可能です。

 

適用条件などについては以下のリンクからご確認ください。

「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm

 

 

4. 併用できる特例とできない特例があるので注意!

税制特を利用する注意点

不動産を売却する際には、複数の節税特例を併用したいと考える方も多いでしょう。しかし、特例を併用できるものとできないものがありますので、事前に確認しておくことが重要です。

 

以下に、今回紹介した特例の中で併用できるものとできないものを示します。

 

特例

併用可能な特例

併用できない特例

空き家の譲渡所得の特例

・マイホームを売ったときの特例、または特定のマイホームを買換えたときの特例のいずれか

・住宅ローン控除

・相続税の取得費加算の特例

相続税の取得費加算の特例

マイホームを売ったときの特例、または特定のマイホームを買換えたときの特例のいずれか

・空き家の譲渡所得の特例

3,000万円の特別控除

・軽減税率の特例

・マイホームを買換えたときの特例

住宅ローン控除

マイホームを売ったときの特例

・3,000万円の特別控除

・マイホームを買換えたときの特例

住宅ローン控除

空き家の譲渡所得の特例と相続税の取得費加算の特例は、どちらか一方しか利用できません。条件に該当する場合、節税効果が高いのは空き家の譲渡所得の特例です。

 

一方、3,000万円の特別控除の特例とマイホームを売ったときの軽減税率の特例は、併用ができません。ただし、住宅ローン控除との併用が可能なのは、売却した年の前後2年間に限られます。

状況に応じて、どの特例を活用するかを検討することが重要です。利益が少ない場合は住宅ローン控除を活用する方が得策かもしれません。

 

5. まとめ

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