親から相続した不動産を売却したい①【相続方法や流れ】
今回は、相続手続きから不動産の売却手続きまでの基本的な流れや相続方法について詳しく解説します。親から相続した不動産の売却ついて悩んでいる方のお力になれれば幸いです。
1.不動産はどうやって相続すればいい?
まずは、不動産の相続の仕方を説明します。
1.遺言がある場合
不動産の相続手続きにおいて、最も重要なのは故人の遺言です。遺言が存在する場合、その内容が優先されます。
適切な形式で作成された遺言があれば、指定された相続人が不動産を受け取ります。たとえば、「不動産は妻に相続する」と遺言書に記載されていれば、妻が100%の権利で相続します。もし「妻と子で持ち分を半分ずつ分割すること」と記載されていれば、妻と子はそれぞれ50%ずつの権利を相続します。
なお、遺言書が見つかった場合は、その種類によって異なる手続きが必要です。
・自筆証書遺言の場合 → 裁判所の検認手続き
・公正証書遺言の場合 → 相続人の調査・確認
・秘密証書遺言の場合 → 裁判所の検認手続き
公正証書遺言が自宅で見つからない場合は、最寄りの公証役場で捜すことができます。公正証書遺言や秘密証書遺言の手続きについては、「裁判所のホームページ 遺言書の検認」から詳細を確認してください。
2.遺言がない場合
遺言書がない場合、相続人たちは「遺産分割協議」と呼ばれる協議を通じて、誰がどの財産を相続するかを話し合って決定します。
通常、配偶者が遺産の50%を受け取り、残りの50%は故人の子供たちで分配されるという基本的な規則があります。相続人の順位には、子やその直系の子孫が第1順位、親が第2順位、兄弟姉妹や甥姪が第3順位に位置します。
ただし、不動産の相続には4つの異なる方法が存在し、これには留意が必要です。具体的な方法については、次の項目で詳しく解説いたします。
2.相続方法は「現物分割・換価分割・代償分割・共有分割」の4つ
相続方法はどのようなものがあるのか分からないという方も多いかと思いのではないでしょうか。相続には、不動産を売却しないという選択もあります。
1.現物分割…遺産をそのままの形で分割する
現物分割は、遺産をそのままの形で相続人に分配する方法です。
一戸建てやマンションのような建物を分配することは物理的にできないため、「長男が家、次男は銀行預金」といった方法で分配されるケースが一般的です。
●現物分割のメリット
・不動産を残せる
・公平な分配ができる
・相続税の負担を軽減できる可能性がある
遺産を物理的に分割することで、相続人間の権利や所有権を明確にし、公平な分配が可能となります。また、分割によって相続税の負担を軽減することができる可能性もあります。
●現物分割のデメリット
・公平に分配することが難しい
・協議がまとまらず、トラブルになる可能性がある
相続人の間で公平な分割を実現するのは困難なことがあります。たとえば、相続人が3人で遺産が土地のみの場合、その土地を3等分することは容易ではありません。また、相続の間で遺産の選定や取得方法について意見の相違が生じ、分割の決定が複雑化することがあります。
●現物分割が向いているケース
・他の相続人の理解を得やすい環境(実家に居住している長男がそのまま実家を相続する場合や、配偶者が自宅を相続する場合など)
・不動産が複数ある、預貯金などの遺産がある、現物分割を行っても相続人間の公平性が保たれるケース。
2.換価分割…売却してお金に変える
換価分割は、不動産を売却し得られた資金を相続人全員に公平に割り当てます。この方法は、不動産の物理的な分割が難しい場合や、相続人の間で遺産の利用や管理について合意が得られない場合に利用されます。
●換価分割のメリット
・公平な分配ができる
・不動産維持管理が不要になる
不動産などの換金性が低い資産を売却し、分割しやすい現金に換えることで、遺産分割割合に応じた公平な分配ができます。
●換価分割のデメリット
・不動産の売却がスムーズに進まないことがある
不動産の売却に時間がかかる、または売却そのものが難しいケースがあり、それによって相続手続きが長引く可能性があります。
●換価分割が向いているケース
・不動産維持管理が負担
・相続財産の中に、相続人全員が相続を希望しない遺産がある
・相続税の支払いに必要な資金は別途確保されており、不動産を売り急いでいない
3.代償分割…相続人が超過分をお金で支払う
代償分割とは、一部の相続人が相続分を超える財産を一時的に相続し、その代わりに、超過分を他の相続人に金銭で支払う方法です。一部の相続人が土地や建物を受け取ることで、不動産資産の価値を保ち、将来の世代に受け継ぐことができます。
●代償分割のメリット
・遺産分割をスムーズにできる
・公平に遺産分割ができる
代償分割のメリットは、遺産をそのままの形で分割でき、公平な遺産分配ができる点です。これにより、分割が難しい資産も適切に分配され、相続人間の対立や紛争を回避できます。
●代償分割のデメリット
・超過分を支払う相続人に相応の資金力が必要
・超過分の算出でトラブルが起きることがある
・贈与税・所得税が発生することがある
超過分を支払う相続人の資力が必要となり、超過分が支払えないと代償分割が成立しません。また、相続人間で超過分の支払い方に関する意見の相違が生じ、トラブルの原因となる可能性があります。さらに、超過分の支払いに関連する所得税や贈与税がかかる場合もあります。
●代償分割が向いているケース
・遺産が不動産しかない(預貯金などの流動資産が少ない)
・相続人全員が自身の相続分を望んでいる(相続人が特定の財産(自宅・自社株式などを引継ぎたい)
4.共有分割…遺産を相続人全員のものにする
共有分割とは、遺産を複数の相続人で共有する方法の一つです。共有された財産は、所有者全員によって共同管理され、利益や費用が共同で分担されます。
共有分割は、遺産を均等に分割するのではなく、共有して所有することで相続人間の合意を得やすくし、相続財産の管理や取引を円滑にすることを目的としています。
●共有分割のメリット
・遺産を簡単かつ公平に分割できる
・財産を維持しやすい
・相続税負担が軽減される可能性がある
遺産を簡単かつ公平に分割できるため、財産の管理や維持が容易になります。また、遺産が分割されるため、相続税の計算基準が低くなり、税金の負担が軽減される可能性もあります。
●共有分割のデメリット
・遺産管理の調整が必要
・協議がまとまらず、トラブルになる可能性がある
・不動産の売却や処分が制限される場合がある
遺産の売却や処分に関しては、全ての相続人の合意が必要となるため、遺産の取引や維持に関するトラブルが生じる可能性があります。特に不動産の売却や処分においては、全ての相続人の同意が必要とされるため、財産の売却や処分が制限される可能性があります。
●共有分割が向いているケース
・相続財産が複数の相続人によって共有されるケース
・相続人全員が財産の共有を希望しており、相互に信頼関係がある
・遺産の分割が難しい場合や、売却や処分が困難な財産が含まれるケース
3. 親から相続した不動産を売却する流れ
最後に、親から相続した不動産を売却する流れを説明します。
1.相続発生~相続税の申告・納税まで
相続発生~相続税の申告・納税までの流れは以下のとおりです。
①遺言書の有無を確認する
財産の整理を行い、プラスの財産(現金・不動産・有価証券など)とマイナス財産(借入金・未払金など)を明らかにします。相続放棄や限定承認などの選択肢がある場合は、適切な手続きを行います。
②遺産分割協議
相続人間で遺産の分割方法を話し合い決定します。
③相続登記
不動産を引き継ぐ相続人が決まったら、相続登記を行い、所有権を変更します。不動産の売却や換価分割をする場合も、相続登記が必要です。
2.不動産の名義変更から売却するまで
相続登記をした後の流れは、一般的な不動産売却と同じです。
①不動産の価格査定
複数の不動産会社に査定を依頼し、売却価格の相場を確認します。
②不動産会社と媒介契約を結ぶ
選んだ不動産会社と媒介契約を締結し、売却活動を開始します。
③売却活動開始
不動産会社が買主を探し始め、売却活動を進めます。
④買主と売買契約を結ぶ
買主が見つかり、売買契約を締結します。
⑤残代金決済・引き渡し
契約条件に従って残代金の支払いと物件の引き渡しを行います。
⑥確定申告
売却に伴う所得税などの税金の申告を行います。
3.相続手続きの全体的な流れ
相続手続きにはそれぞれ期限があります。相続の全体的な流れと期限を以下にまとめましたので参考にしてください。
期限の目安 | 手続き内容 |
死亡を知ったときから7日以内 | 死亡届の提出 |
適宜(概ね当日~2日以内が一般的) | 死体火葬許可申請書、親族等への連絡、葬儀の準備 |
死亡日から数えて国民年金は14日以内、厚生年金は10日以内 | 年金受給権者死亡届 |
受給権者(被相続人)の年金の支払日の翌月の初日から5年以内 | 未支給年金請求の届出 |
死亡日から14日以内 | 被相続人の介護保険資格喪失届、世帯主の変更届(被相続人が世帯主かつ残された世帯員が2名以上の場合) |
1ヶ月前後が目安 | 遺言書の有無の確認、遺言書の検認手続き、法定相続人の確定、相続財産の調査、遺産分割協議の着手 |
自己のために相続があったことを知ったときから3ヶ月以内 | 限定承認の申述、相続放棄の申述 |
死亡日の翌日から4ヶ月以内 | 被相続人の所得税の準確定申告 |
死亡日の翌日から10ヶ月以内 | 相続税の申告 |
できるだけ速やかに | 遺産分割協議書作成 |
相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年以内、相続開始から10年以内 | 遺留分侵害額請求 |
適宜 | 相続登記 |
法定申告期限から5年以内(死亡から5年10ヶ月以内) | 相続税の申告 |
4. まとめ
不動産の相続は、遺言の有無や法定相続人の人数、遺産の総額などを調査し、遺産の分配方法を決める必要があります。しかし、相続手続きは感情的な葛藤からトラブルに発展しやすいものです。トラブルを回避するためには、相続人全員が合意することが不可欠です。そのため、不動産の相続や売却に関しては、進捗状況を定期的に共有しながら進めることが重要です。
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